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佐賀地方裁判所 昭和34年(む忌)1号 判決

被告人 元山逸馬

決  定

(被告人氏名略)

右の者に対する公職選挙法違反被告事件につき、弁護人吉浦大蔵、同野方寛より佐賀地方裁判所武雄支部裁判官江口弥一に対する忌避の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件忌避の申立は、これを却下する。

理由

申立人等の本件忌避申立理由の要旨は

裁判官江口弥一は、右被告人に対する本件公職選挙法違反被告事件(以下本件被告事件という)の一人の裁判官による公判裁判所を構成する裁判官として、その審理にあたつている者であるが、これよりさき同裁判官はその第一回公判期日前である昭和三十四年四月二十三日佐賀地方裁判所武雄支部において、本件被告人を被疑者とする公職選挙法違反被疑事件につき、検察官の刑事訴訟法第二百二十七条による証人尋問請求に基き証人として伊勢馬場治美を尋問した。しかしてその尋問内容には被告人に対する本件公訴事実すなちわ被告人が二回に亘り伊勢馬場治美に対し金員を供与した事実が含まれていたものであつて、同裁判官は右証人尋問により当然本件被告事件の内容を知り事件について予断を持つに至つたものと認められ、不公平な裁判をする虞があるから、同裁判官を忌避する。なお本件忌避の申立は、被告人及び弁護人が既に事件について陳述且つ請求した後に為したものであるが、被告人は前記証人尋問に立会つて居らず又弁護人等は、検察官がそれまで証拠書類の閲覧謄写を拒否していた為、共に前記証人尋問の為されていることを知らなかつたものである

というのである。

一件記録及び申立人等提出の疏明書類によれば、本件被告事件の一人の裁判官による公判裁判所を構成する裁判官江口弥一が申立人等の主張する日時場所において本件被告人を被疑者とする公職選挙法違反被疑事件につき申立人等の主張するような証人尋問を為したこと、ならびにその尋問内容には本件被告事件の公訴事実が含まれていることが認められる。したがつて同裁判官が右証人尋問を行つたことにより本件被告事件について予め或程度の知識を持つたことは否定できないのであるが、これをもつて直ちに同裁判官が事件につき予断を持つたものと言うことはできず、更に本件被告事件のこれまでの審理において同裁判官が既得の知識による予断をもつていることを認めるに足りる事跡も存しない。しからば同裁判官が刑事訴訟法第二百二十七条に基く証人尋問を為したからといつて本件被告事件につき同法第二十一条にいわゆる不公平な裁判をする虞があるものと言うことは出来ないから、申立人等の本件忌避申立は理由がないものとしてこれを却下することにする。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 佐藤秀 野間礼二 長崎裕次)

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